香水の寓話

硝子細工の香水壜をなんとなく手に取ってみた。冷たい蓋をそっと外してみると、華奢な少女がわたしの前に現れた。彼女の絹のように滑らかな亜麻色の美しい髪が揺れると、仄かに牡丹の花の香りが立つ。磁器を思わせるような白くなめらかな肌は、わたしが手を伸ばすと消失してしまいそうだった。琥珀の宝飾品のような薄い飴色の虹彩は、わたしの視線を逃れるように伏目がちになっり、わたしはその長い睫毛の連続する運動から目を離すことができない。薄い薔薇色に染められた頰と、小さく控えめな鼻、艶やかな桃色の唇、そしてそれらの均衡。軽く握っただけで折れてしまいそうな小枝を思わしめる華奢な体躯。彼女に触れてみたいという衝動に襲われ、壊さないように壊さないようにゆっくりと手を伸ばした。彼女の白魚のような細長い手指を掴みかけた瞬間、わたしの手には何か硬質なものが当たり、かたんと音を立てた。はっと気づくと少女の姿は何処にもなく、柔らかな牡丹の花の残り香と共に、豪奢な硝子の香水壜が机の上に倒れているだけだった。