レストランに行った話

 先日、クーカーニョというレストランに行った。渋谷のセルリアンタワーの最上階にあるフレンチレストランだ。永妻シェフのプロヴァンス料理がいただける。かつてはミシュランガイドに一つ星がついたこともあるらしい。ドレスコードがあるし、良いお店なんだろうなとは予想していた。が、予想していたよりもずっといいお店だった。およそ大学生には相応しくないレストランだった。フロアに足を踏み入れた瞬間、東京を一望できる贅沢な夜景が眼前に広がる。はしゃぎたい気持ちを抑えるのに一苦労した。周りのお客さんは誰一人はしゃいでなんかいなかったし。もしかしてみんなはしゃがないように無理やり気持ちを抑えつけていたりするのかな。まあいいけど。

 

 特に誕生日でも特別な日でもなかった。ただ、ローラン・ジャナン氏のデセールをどうしても食べたかっただけだ。それであんなに良いレストランに足を運ぼうと思い立った。(それくらいの勢いじゃないと、たかが大学生があんなレストランに行くことなんてないはず。躊躇うもん。)ローラン・ジャナン氏はホテル ブリストルのパティシエで、毎年このシーズンに日本の若きパティシエたちにデセールを伝授するべく来日しているとのこと。今回いただいたコースは、彼のデセールを基軸にして編まれているとのこと。

 

 コースはアミューズブーシュ、前菜、スープ、お魚料理、お肉料理、アヴァンデセール、グランデセール、ミニャルディーズといった感じだった。それぞれ思い出しながらメモ程度に書いていきたい。

 

 アミューズブーシュはトマトのジュース。パレットに見立てた可愛らしいお皿に、絵の具のチューブが乗っている。歯磨きのペーストかと思って、今時のモダンフレンチはすごいなと感嘆してしまった。が、よく聞けば、チューブにはバジルのジュレが入っており、「お好みでどうぞ」とのこと。パレットに絵の具を乗せるようにしてジュレをかける。爽やかなトマトの酸味が口いっぱいに広がる。

 

 アミューズブーシュは、意外とシェフの実力の見せ所だと言う。一番初めのお皿が美味しくなければメインにだって期待できないのだから。これからどんな料理が運ばれてくるのだろうと思うとワクワクが止まらず、頬が緩む。思わず連れの顔を見ると、連れも頰が緩んでいた。多分同じようなことを考えていたのだろうと思うけれど。

 

 それからタスマニアサーモンのマリネのポーピエット仕立てと、キャヴィアのタルトレット。タルトレットのさくさくとした食感のパイ生地は塩味が効いていてとても美味しい。マスの卵のフレンチキャビアをいただいたのは多分生まれて初めてだった。小さくぷつぷつした食感が楽しい。

 

 フォアグラのロワイヤルとツバメの巣のコンソメスープ。ロワイヤルというのは洋風の茶碗蒸しのことで、要するにフォアグラの茶碗蒸しだ。干し葡萄がアクセントになっている。贅沢の限りを尽くしたような一皿。

 

 素敵な笑顔のギャルソンがパンを運んできてくれる。7種のパンから好きなものを好きなだけ選ばせてくれる。ちなみにパンはセルリアンタワーで作っており、販売はしていないとのこと。選んだのち、きちんと温めてからサーブしてもらえる。わたしは硬めのフランスパンをいただいた。連れから一口だけ食べさせてもらった海藻のパンも美味しかった。おかわりでは胡麻がふんだんに使われたミディアムハードのパンをいただいた。これも美味しい。

 

 そしてお魚料理。旬魚鱸のグリエ。色とりどりの野菜が盛り付けられた目に楽しい一皿。香草とレモンオイルのソースをつけていただいた。鱸の食感たるや!!!なんであんなにぷりぷりしているんだろうね、悩ましい限りだった。

 

 メインはフランス産ミルクフェッド仔牛のロースト。じゃがいものピューレときのこ。なんでもミルクしか与えていない仔牛だそうで、めちゃくちゃ柔らかい。こんなに美味しいお肉があるのかと驚かされた。ギャルソンに「ミルクの香りもすると思います」と言われたが、正直よくわからなかった。勉強不足です。

 

 さて、ここからがお待ちかねのデセール。アヴァンデセールは、グレープフルーツのソルベ。カンパリの風味がする。その下に柔らかいハイビスカスのジュレが敷かれている。美味しい。

 

 グランデセールは2種類あったので、連れとわたしで一皿ずついただいた。まずは金塊をイメージしたと言われるトロピカルフルーツのデセール。キャラメリゼしたピーカンナッツマダガスカル産ヴァニラアイスクリーム、胡椒風味のパッションフルーツのジュが乗ったアシェットデセール。トロピカルフルーツの酸味がアイスクリームの濃厚な甘味と調和し、なんともバランスの取れた一皿。

 

 それから、コーヒーとコニャックのデセール。コニャックのパルフェと炒ったヘーゼルナッツ、ブルーマウンテンコーヒー風味の軽いクリームが乗ったアシェットデセール。コニャックの香りが鼻を突き抜け、なんとも大人っぽくてクラクラと面食らってしまうようなデセールだった。 

 

 最後に、ミニャルディーズをコーヒーと一緒に。ラズベリーの生チョコレート、レモンのマカロン、ピスタチオのギモーヴとラズベリー、シロップの薄い膜で包まれたグレープフルーツの4つ。すべて美味しい。特にシロップの薄い膜で包まれたグレープフルーツは見た目も可愛らしく、食感もぷちっと弾けるような楽しいものだった。素敵なギャルソンのお兄さんが「個人的にはイクラみたいな食感だと思います」と言っていたのが少し面白くて印象的だった。

 

 素晴らしいコース料理だった。ただの大学生には贅沢すぎる体験だった。あのレストランでは、時間の流れはかくも緩慢だったかと不思議になる。とにかく優しく穏やかで落ち着いた雰囲気を楽しめる。夜景もとても綺麗だし、多分デート向きのレストランだと思う。カップルは1人2万円くらい握りしめて行くといいよ。

 

 今回はローラン・ジャナン氏のデセールが食べたいという理由だけで良いレストラン に飛び込んだわけだけど、本当に素敵な時間を過ごせた。アミューズブーシュからミニャルディーズまですべて綺麗で、美味しかった。は〜また機会があれば行きたいな。